第1回
江ノ電の魅力は、風光明媚な車窓に加え、路面電車を彷彿させる併用軌道や軒先をかすめるように走るさまなど、首都圏の鉄道らしからぬローカル色豊かな沿線環境によって演出されておりますが、さらにこうした環境の中を往来する小ぶりな車両の存在もまた、魅力を倍加させる要因と言えましょう。
当社の鉄道車両は、昭和31年に就役した200形以来、2両一組を基本とする連結車、あるいは連接車が標準スタイルでありましたが、一部例外として昭和55年まで100形グループの107・108号車が単行運行されていました。この100形は、昭和4年から28年までの間に登場したシリーズで、新造車101~110号と譲受車111~117号車(うち113・114号車は各2代あり)に分類されます。そのため、車両形態もさまざまで、唯一ボギー車である点が共通していたにすぎません。しかし同形は、当社車両の礎を築いたほか、ひろく「タンコロ」という愛称で親しまれるなど、長年にわたり江ノ電人気を支えてきた功労車のひとつとして欠かせぬ存在でありました。
100形グループの第一陣101~104号車は、江ノ電線が東京電灯によって経営されていた昭和2年に新造されたにもかかわらず、同線の経営権が当社に移った(昭和3年)後の昭和4年に就役した変り種であります。導入から就役までに2年もの年月を要しているのは、既存車両よりも規格の大きな同車の運行を前に停留場や鉄橋などの諸施設を改良しなければならないという制約があったためであります。
その後当社は、105~110号車(昭和6年)を皮切りに2代目114号車(昭和28年東京都交通局より譲受)に至るまで15両の100形を増備し、このうち105・107・108・110・111・初代113・初代114・115・116・117号車を除く100形が連接車に改造されました。ちなみに、現存最古参の300形303号車のルーツは昭和2年に新造された103・104号車で、通算車暦はじつに77年に及びます。
一方、前述のように最後まで残った107・108号車も、昭和55年12月21日~同28日まで実施された「さよなら運転」をもって現役を退き、前者が鎌倉市、後者が当社によって保存されています。特に当社極楽寺車庫において保存されている108号車は、庫内に留置されているため通常は非公開ですが、貴重な昭和一桁生まれの実動車として同車庫内で開催されるイベントの主役を務めています。
(参考文献『江ノ電の100年』)
『江ノ電の100年』は、開業100周年記念事業の一環として平成14年9月に発刊された江ノ島電鉄のオフィシャル史料です。400ページにわたるその構成内容は、鉄道以外の事業にも焦点をあてることにより社史としての平準化をはかり、新たに発掘された史料や貴重な写真も多数収録されております。 |