第1回
江ノ電は、藤沢を起点に相模湾沿岸を経由し鎌倉に至る鉄道ですが、その車窓を彩る自然景観と古都の風情は開業来ほとんど変わりません。本章では、こうしたかけがえのない沿線の財産に焦点を当て、側面から江ノ電の歴史を振り返ってみることにしましょう。
江ノ電は、明治36年6月に片瀬~行合(現七里ヶ浜付近)間が開業したことによりはじめて海と出会い、以来湘南海岸とは切ってもきれない関係となりました。当時、すでに沿線にはいくつもの海水浴場が開設されていたようで、同年7・8月の輸送人員も年間の40%を占めていました。そして、これら沿線の海水浴場は、近隣の別荘開発ブームや交通機関の整備に併行して発展の一途をたどり、昭和初期には首都近郊有数の遊楽の場として定着しました。もちろん、こうした傾向は当社にとっても歓迎するところであり、同時期、窓をすべて取り払い涼しげな水色の塗装を施した納涼電車の運行や廃車体を利用したバンガローを七里ヶ浜海岸に並べるなど、海水浴を意識した斬新な企画が相乗効果をもたらしました。ちなみにこのバンガローは、昭和7年より19年ごろまで営業された宿泊施設で、当時のパンフレットによると1室(1両)に8人の収容が可能だったそうです。
さらに当社は、昭和25年3月に相模湾の眺望を提供するために江の島展望灯台(平和塔)を建設したほか、平成10年まで、海の家の営業を片瀬西浜海岸において行うなど、当社にとって海浜レジャーへの対応は欠かせぬものでありました。また、昭和26年3月に開業し、本年7月には装いも新たにオープンした江ノ電駐車センターも多くの海水浴客にご利用いただき、併設のイタリアンレストラン「イル・キャンティ・ビーチェ」も店長お勧めのシーフードスパゲティが好評を得ております。
このように湘南の海は、その抜群のロケーションが様々な事業機会をもたらしましたが、一方では、マリンスポーツのメッカでもあり、電車やバスの車窓からは華麗にボードを操るサーファーや色とりどりのヨットが見られます。こうしたマリンスポーツは、江の島が東京オリンピックのヨット競技会場となったことを契機に広まり、以来、活気に満ちた湘南を象徴する景観の一部として定着しています。
『江ノ電の100年』は、開業100周年記念事業の一環として平成14年9月に発刊された江ノ島電鉄のオフィシャル史料です。400ページにわたるその構成内容は、鉄道以外の事業にも焦点をあてることにより社史としての平準化をはかり、新たに発掘された史料や貴重な写真も多数収録されております。 |