第1回
完全な新造車としては実に48年ぶりとなる1000形電車2編成(1001号車・1002号車)が入線し、同12月3日より営業運行を開始しました。 当時の江ノ電は、沿線を舞台としたテレビドラマ「俺たちの朝」のヒットを機にノスタルジックなイメージが浸透し、今風に言うメ癒し系モの鉄道として人気が定着しはじめていた矢先であり、新造車の導入には慎重な取り組みが必須でありました。そのため、メーカーの東急車輛製造と1ヵ年に及ぶ綿密な打ち合わせの過程で、江ノ電らしさの維持と古都鎌倉との調和をテーマに数案を比較するなど、設計にあたっては、デザイン面への配慮が重視されました。そして、選定されたのが、当社コーポレートカラーである緑を基調とする車体色に開放感を加味した現行スタイルであります。なお、大型の窓を採用しましたのは、もちろん、第一に車窓を楽しんでいただくためですが、さらには採光と換気の効果を高めるためでもありました。 |
一方、性能面においても新機軸が随所に盛り込まれ、特に中小私鉄では先進的な試みとして採用したワンハンドルマスコンは、乗務員に歓迎されたほか、社外的にも注目を集めました。こうした中で、あえて旧態依然のつり掛け式の駆動方式を採用したのは、曲線通過への対応として軸距(同一台車内の車軸間距離)の短縮化を図ったからであります。おそらく日本で最後に新造されたつり掛け駆動式車両でありましょう。 このように、客観的な江ノ電のイメージを尊重しつつ、清新なスタイルで登場した1000形は、沿線住民から熱烈な歓迎を受けたばかりか、鉄道愛好者のあいだでも高く評価され、鉄道友の会よりブルーリボン賞を受賞しています。 (『江ノ電の100年』より抜粋) |
『江ノ電の100年』は、開業100周年記念事業の一環として平成14年9月に発刊された江ノ島電鉄のオフィシャル史料です。400ページにわたるその構成内容は、鉄道以外の事業にも焦点をあてることにより社史としての平準化をはかり、新たに発掘された史料や貴重な写真も多数収録されております。 |